【ブータンの未来を空から描く】 ブータンと日本の「共創」が拓く、次世代モビリティの未来
ヒマラヤの険しい嶺々に抱かれた「幸せの国」ブータン。この国で今、日本の知見を携えたエキスパートたちが、空からのアプローチで社会課題を解決するという重要なプロジェクトが進められています。
2025年10月、独立行政法人国際協力機構(JICA)の技術協力事業として「ブータン国ドローン利活用環境整備プロジェクト」が始動しました。エアロトヨタ株式会社、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、株式会社地球システム科学の3社による共同企業体(JV)により実施され、ブータンにおける持続可能なドローン利活用の基盤整備を目的としています。
本JVにおいてJUIDAは、日本におけるドローンの安全運航指針や人材育成、制度整備の知見をもとに、ブータンにおける適切な運用環境の構築に貢献しています。

ヒマラヤの険しさと、人々の暮らし
ブータンの国土面積は約3.8万平方キロメートルで、日本の九州とほぼ同じ大きさです。そこに約79万人の人々が暮らしています。
この国の最大の特徴は、その圧倒的に急峻な地形にあります。南部の標高200mから北部の7,000m級の高峰まで、わずかな距離で高度が劇的に変化します。深い谷を縫うようにポ・チュ(父川)やモ・チュ(母川)といった力強い河川が流れ、その合間に小さな集落が点在しています。
主食は、赤米や白米とともに 、唐辛子を野菜として食べる「エマ・ダツィ(唐辛子のチーズ煮)」などが親しまれており 、独自の豊かな文化を育んできました。しかし、この美しい山岳地形は、物流や移動においては大きな壁となります。未舗装の砂利道や急勾配の悪路は、移動負担が大きい環境であり、雨季や積雪期には遠隔地へのアクセスが完全に遮断されることも珍しくありません。
ブータン政府は、ドローンをこうした地理的制約を打ち破る「デジタル経済発展の鍵」と位置づけ、物流、測量、災害対応など多角的な分野での活用を模索しています。
本プロジェクトを担う3者は、それぞれ異なる専門性を有しています。エアロトヨタ株式会社は機体運用や実証に関する実務的知見、株式会社地球システム科学は開発計画や社会実装に関する知見を有し、これらに加えてJUIDAは、ドローンの安全運航や制度整備、人材育成といった分野における知見を担っています。
JUIDAは、日本におけるドローン産業の黎明期から関係者とともに取り組みを重ねてきた団体であり、10年以上にわたり安全運航の指針整備や人材育成、制度形成に関わる知見を蓄積してきました。そうした経験の中で得られた成果や課題の双方は、現在の運用ノウハウとして体系化されています。
本プロジェクトでは、こうした蓄積を踏まえ、ブータンの実情に適した形での制度・運用環境の構築に貢献することを目指しています。とりわけ、安全性と持続性の両立が求められるドローン運用において、こうした知見は基盤となる要素の一つです。

現地での対話から始まる「第一歩」
プロジェクト開始から約半年。2026年3月現在、主要なエキスパートメンバーは全員ブータンへの渡航を果たしました。首都ティンプーを拠点に、カウンターパートであるインフラ運輸省(MoIT)をはじめ、民間航空局(BCAA)や航空運輸局(DoAT)、さらには警察や各省庁といった多岐にわたるステークホルダーと対面での協議を重ねています。
現在は、将来の本格運用に向けた「土台」を築く重要なフェーズです。私たちは、プナカやプンツォリンといった各地の現場を自らの足で視察し、現地の風や地形を肌で感じることで、ブータンの社会に真に調和する仕組みのあり方を検討しています。
また、現地においてJICAの取り組みは広く認知されており、関係機関との信頼関係のもとで対話を進められる環境が整っています。
具体的には、以下の視点を軸にパートナーシップを深めています。特に安全運航や制度整備の領域においては、日本で培われた知見を活かした検討を進めています。
- 未来へのロードマップ支援: ブータンが掲げるビジョンに基づき、長期的な発展に資する戦略への提言。
- 実地での知見共有: 標高差が激しく過酷な環境下において、いかに安全にドローンを運用できるかの技術的検証。
- 安心を支えるルールづくり: 空の安全を担保し、誰もが安心して利用できるための基準やルールの検討。
- デジタル基盤の試行: 効率的な運用を支えるための、基礎的なシステムの検討。

両国の国益、そして未来のために
私たちの役割は、単に機体を導入することではありません。プロジェクト終了後も、ブータンの人々が自らの手でこの新しい産業を育んでいけるよう、持続可能な「環境」そのものをデザインすることにあります。
この活動は、ブータンの課題解決に寄与するだけでなく、同じく山岳地域を抱える日本国内の地域課題解決へのヒントにもつながる「双方向」の意義を持っています。ヒマラヤの空を舞うドローンが、人々の生活に確かな希望を運ぶその日まで、今後も着実に取り組みを進めてまいります。
本取り組みを通じて得られる知見は、日本国内におけるドローン利活用の高度化にも還元されることが期待されます。今後の取り組みの進展についても、機会を捉えてお伝えしていきます。
プロジェクト概要
- 業務名称: ブータン国ドローン利活用環境整備プロジェクト
- 履行期間: 2025年10月10日 ~ 2028年2月15日
- 実施体制: エアロトヨタ株式会社(代表幹事)、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、株式会社地球システム科学によるJV
